大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和42年(ワ)12001号 判決 1970年1月08日

原告 折山薫春

右訴訟代理人弁護士 児玉幸男

同 佐々木務

被告 サンコー機械株式会社

右代表者代表取締役 佐々木哲男

<ほか二名>

右三名訴訟代理人弁護士 鈴木誠

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、原告は、「被告らは、連帯して、原告に対し、金八〇万円とこれに対する本訴状送達の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因を次のとおり述べた。

1、原告は、訴外河合一夫に対し、昭和三九年七月一七日に、金三五五万円を、昭和四二年一月から毎月末日限り金一〇万円宛割賦弁済することとし、右割賦金の支払いを遅滞したときは期限の利益を失う約定で貸渡した。

2、そうして、原告は、右貸金債権を担保するため、昭和四一年三月二六日に、河合一夫が東京都千代田区に本店を有する被告サンコー機械株式会社(以下被告東京サンコーという)から買受けて所有かつ占有する旋盤(六呎番号三四九五一ワシノ製)一台(以下本件機械という)ほか七点の機械に対し、工場抵当法第三条の抵当権を設定するとともに、代物弁済の予約をなした。

3、河合一夫は、昭和四二年一月末日を経過するも前記割賦金の支払いをせず、期限の利益を失ったので、原告は代物弁済完結の意思表示をなし、その結果本件機械は原告の所有となった。

4、かりに、河合一夫が本件機械の所有権を有しなかったとしても、原告は、本件機械を同人の所有物と信じ(そう信ずることに過失はなかった)、前記貸金債権を担保するため、昭和四一年九月五日に本件機械を含む前記機械八点の所有権を譲り受けて、占有改定によってその引渡しを受け、爾後これら機械を河合一夫に無償で使用させていたのであるから、原告は即時取得によって本件機械の所有権を取得した。

5、然るに、被告らは、共同して、昭和四二年一〇月一七日に本件機械を河合一夫方から搬出し、その後他に売却してしまった。

6、本件機械の価格は、金一〇〇万円に相当するので、原告は、所有権に基き、被告らに対し、連帯して損害賠償として金八〇万円と、これに対する本訴状送達の翌日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二、被告らは主文同旨の判決を求め、原告主張の請求原因第1項記載の事実は知らない、同第2項記載の事実中河合一夫が本件機械を占有していた事実は認めるがその余の事実は知らない。同第3項記載の事実は知らない、同第4項記載の事実は争う、同第5項記載の事実中札幌市に本店を有する被告サンコー機械株式会社(以下被告札幌サンコーという)が本件機械を搬出した事実は認めるが、その余の事実は否認する(原告が本件機械に対して取得した占有は占有改定によるものであるから、即時取得としての効力を生ずるものでない)、同第6項記載の事実は争う、本件機械は被告札幌サンコーが、昭和四〇年七月三日に、代金完済まで所有権を留保して訴外有限会社河合製作所に売渡したものであるが、右訴外会社はその代金の一部しか支払わず、従って、本件機械の所有権は被告札幌サンコーにあると述べた。

三、原告は、被告らの主張に対し、原告は本件機械の所有権に基き、昭和四二年七月二〇日東京地方裁判所において河合一夫に対し、本件機械の執行官保管、占有移転禁止の仮処分決定を得てその執行をなし、更らに、昭和四二年九月三〇日に東京地方裁判所において河合一夫に対する本件機械の引渡しの本案判決を得て、右判決は河合一夫が上訴することなく同年一〇月一九日に確定したのであるから、第三者である被告らの本件機械の搬出は、かりに被告札幌サンコーにおいて何らかの権利を有するとしても、仮処分債権者である原告に対抗できず、また、被告らは右本案判決の事実審最終口頭弁論期日後に本件機械を搬出したのであるから、この点からみても、被告らは本件機械の引渡義務を承継したにも拘らず、その執行を不能にしたものといわなければならない。

(証拠)≪省略≫

理由

一、河合一夫が本件機械を占有していたこと、被告札幌サンコーが昭和四二年一〇月一七日に本件機械を河合一夫方から搬出したことは当事者間に争いがない(被告東京サンコーおよび被告佐々木哲男が被告札幌サンコーと共同して本件機械を搬出したとの原告の主張事実についてはこれを認定できる証拠はない)。

二、本件機械の所有権が河合一夫にあったとの原告の主張事実については、本件全証拠によるも、右事実を認めることができない。むしろ、≪証拠省略≫によれば、本件機械は被告札幌サンコーが、昭和四〇年七月三日に、有限会社河合製作所(代表者河合一夫)に代金完済まで所有権を留保して売渡したものであることが認められ、右認定に反する証拠はなく、一方有限会社河合製作所において右代金を全額支払ったことを認定できる証拠はない。

従って、本件機械の所有権は被告札幌サンコーにあり、原告が河合一夫から代物弁済によって、本件機械の所有権を取得するいわれはなく、また原告の即時取得の主張についても、占有改定による占有取得によっては即時取得を認めることができないから、原告の右各主張はいずれも判断の限りでない。

三、そこで原告が河合一夫に対してなした本件機械の執行官保管占有移転禁止の仮処分決定の執行および河合一夫に対する所有権に基く本件機械引渡の本案判決の承継の点について判断する。

1、仮処分決定とその執行は、仮処分債権者に実体法上の権利関係を創設するものではないから、原告主張の仮処分は、前記認定の事実を前提とする限り、被告札幌サンコーに対し、なんらの効果を及ぼすものでないことは当然である。

2、かりに、原告主張のように、被告札幌サンコーが本件機械を河合一夫方から搬出し、その占有を取得したのが、原告が河合一夫に対してなした、所有権に基く本件機械引渡請求の勝訴判決の事実審最終口頭弁論期日以後のことであったとしても、原告が右引渡判決の基礎とした河合一夫に対する本件機械の所有権は、前記認定のとおり被告札幌サンコーには主張できないのであるから、同被告が右判決の承継人である旨の原告の主張は採用できない。

四、以上説示のとおり、本件機械の所有権侵害に基く原告の本訴請求は、原告のその余の主張を判断するまでもなく失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 定塚孝司)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例